一般社団法人 日本アーユルヴェーダ学会

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第21回日本アーユルヴェーダ学会総会
総会テーマ 現代医療から未来医療へ

奈良県文化センター 1999年10月1日~2日

特 別 講 演  
予防と未病の違いについて  

春光苑主宰 粟 島 行 春     

 粟島でございます。最初にお断り申しておきますが、私は中国医学の古典の研究者でありますので、アーユルヴェーダについては丸山先生が「大地原先生のスシュルタ本集」を最初に作られた時にですね、私はちょうど日本綜合医学会に在籍しておりまして最初からの関係者ではあるんですけど、その当時からすでに中国医学の古典研究をやっておりました。その古典のなかにある「未病」という概念ですね、それともう一つは「予防」という概念、これはどちらも中国では「両極」として存在しているものなんですね。それが近年日本ではいつの間にか「病気と健康の間」に「未病」という病気があるという概念が起こった。どこから間違ってきたか知りませんが、そういう考え方を持つ人がかなり多くなってきています。それから西洋医学の方では「予防」ですが、東洋医学では「未病」であるという風な考え方を持っている人もいます。しかし本質的にはですね「未病」というのが、本来の概念とどう違うかというのを、基本として申し上げてみたいとこう思います。 
予防医学

 【図1 予防の語源について】


 「予防」という語源を調べていきますと、中国でいちばん古い文献といわれるのは勿論「易経」といわれていますが、この伏羲(ふつぎ)という人のあらわした易経の中には、「未病」という言葉も「予防」という言葉もございませんで、その考え方の基本は「陰陽」という考え方ですね。陰陽の考え方そのものを出したのは、伏羲ですけれども、それ以前に神農という薬の方の神様がでてきまして「神農易」というのがあります。その他に後に周の時代にはいりまして、周公、お父さんが文王ですけれども、文王、周公お二人で作られて完成したものが「周易」といわれるものです。この周易のなかにも、「予防」という言葉はありません。ただ、問題は「孔子」が出てきまして「孔子易」と後に言われるんですけれども、周易に対する「易経繋辞」といいまして、それを解説した本ですね。これの中には「離坎、既濟(りかんきさいの卦)」というのがあります。これは判り難いいですから、私は「水、火、既、済」というのがいいと思います。まず考えていただきますのは、
予防2


 (図2-1 象曰水在火上既濟君子以思患而予防之)


 ‥この半分で分けてあるのがありますが、これが陰、分かれていないのが陽です。分かれているのが女性、つながってるのは男性なんだという見方をするのは、ふつう俗説とか「助平学」という範疇なんです。一般的ではありません。俗説です。実際にはどういうことであるかというと、これは二つ離れたものが、一つにくっつこうとするエネルギーを持っているものを陰というわけですね。それから陽というのは一つにくっついていますけれどもこれがこれから離れていこうとする、エネルギーを持っているというのがこの陽という考え方なんです。


 従いまして、男性というのがどちらかというとエネルギーを持っていますが、「暇ができ」「金ができると」、分散しようという、そういう本質的なものを持っていると考えています。それから女性はこの二つのものを、一つにくっつけて育てていくという、そういう働きをしていくのを、本質的にもっています。 


 それが陰と陽という二つの反対のものでありますので、これを二元論的にとらえようという人もあります。しかし陰陽といっても所詮は元はひとつですね。ですから地球がひとつあって、昼があって夜がある。しかしまた昼になってくるいうことですから、本来陰陽というのは一つの身体に過ぎないわけですけれども、男と女という場合、別々に人格として存在していくために勘違いして、男と女の二元論的に解釈する人が多いわけですが、そういうことはありませんで、一元論的にとらえられてきたのです。 特に女性の場合は、この二つのものを一つにするエネルギーを持っていますから、かりに百貨店なんかに行きますと、あちらを見てこちらを見てどちらに決めるかというようなことにものすごいエネルギーを使うわけですね。


 男性はさっさと買うんだけれども、女性は買った後でもまだ気持ちが他の品物に残っていたりします。 この男と女の正反対の性質のものが、結婚して生活をともにして、年をとったら少し楽をしようというわけで若いうちは一生懸命働いて、家も建て、子供も育て、一流の大学を卒業させて、就職させた、やれやれこれからゆっくりという時に旦那が浮気をするということはよくあることなんですね。そして一家はどん底に落ち込むということをよく聞きますが、これは本性を知っていないから落ち込むんです。男性は暇ができ、金ができたら分散しようという本質を持っているわけですから、、、それで男性をいつまでも貧乏させて働いて働いて働き、バタンキュ―で死なせたら、これは女性が成功したといえます。 そういうふうに男性は一生懸命働いて働いて、汗びっしょりかいて、一つの所でものごとをやる。学問でも他に目移りしないで一生懸命やるということによって、その人の本質が全うできる、そういう性質のものであります。 


 このふたつの性質を分ける陰陽は、伏羲の易で考えている陰陽で、食べ物でも陰性、陽性と決めてしまう、そういうやりかたはだいたい伏羲の易といっています。それをさらに展開させてきたのが、文王の周易です。この周易に孔子様が易経繋辞という解説を作ったんですね。そのなかの最初に(図3)があるわけです。

 予防3


 【図2-2】上の三つが坎(かん)という。下の三つが離(り)という。


 


  このちょんちょんと二つあって線が二つある。これは象形文字で(火)という文字の元々の字です。もう一つ上は真ん中に線があってちょんちょんちょんとありますから、(水)という文字の原形になるんですね。 易経というのは世の中の全貌をどういう分析をしていけば理解しやすいかということから出来たんだけれども、それがだんだん堕落していきますと、要するに吉凶判断とか、物を失ったら易を立ててみるとかといったような、占いの方向に向かっていくんですね。 これが堕落の方向であるというのは、一つは修行のため、あるいは世のなかの理を知るためにできた易というものがいつの間にか吉凶判断風になって、たとえば人間が健康で長生きをしていこうという、実利の方向に向かってくるわけです。 たとえば儒教であるとか道教であるとか、発達していくんですが、これが逆にいうと精力剤を求めるとか、そういう方向に進んでいくのは一種の堕落ですね。 だから漢方薬でも病気を治療するために使われるものと、逆に精力剤を作って儲けていくという二つに分かれていくんですね。 だから易の最初の基本がこれ(陰陽)になっているんですね。 


  この「水火既済」の字、「卦」はですね、「卦」のなかでは、最高至上をあらわすものと言われています。この上の「水」と下の「火」、これをじっと見ると分かると思いますが、火の上に水があるわけですから、ものを煮たりするとか、ご飯を炊くとか非常に都合がいいんです。でこれが最高至上の卦ということになってるわけですね。 たとえば橋本龍太郎先生が自民党の総裁になったときに、高島易断の、いま五世ですかね、高島呑象という人が卦を見たら、この卦が出ていたので、最高至上の卦がでたというので一門が大喜びして、祝宴をはったということを聞いております。 じつはこの八卦(水火既済)というのは、最高至上でありますために、危険な点があります。見ていただきますとわかりますように、火の上に水が乗ってる。このまま放置しておきますと、水は沸騰してきまして、たぶん人間に災いするでしよう。火も燃えてきて上がってですね、水がなくなってしまうと火事になったりすることでしょう。ということは今なにかが起こっているわけではありませんが、最高至上なんですけれども、しかし将来にはかならず災いが起こってくるということを君子は知って、あらかじめ防ぐ、つまり予防する、という言葉はここから出てきたんです。


 例をあげて申しますと、女性の卦からでてくる年齢があります。それは7の倍数です。まず7歳で骨盤がしっかりする。だから男性女性というものは腰骨を見ると差がわかる。しっかりと女らしくなってくるのは7歳、14歳で天の癸が始まる。つまり月経が始まるということですね。 そして21歳になると子供を産んで育てることが出来るようになる。 なかには15歳で産むことができるんじゃないかという人がいますが、産むことは出来るかも知れないが、育てる能力がありません。周囲のだれか手助けできる人がいないとその子供は育てられない。21歳になるとしっかりとして、自分で働いて子供を育てる経済力も体力もできてきます。


 そして28歳になると「水火既済」の卦になるんです。これはなにかというと、老化が始まるという卦であります。そうして7の倍数7×7=49歳、天の癸終わる、となって閉経期を迎えます。しかし普段の生活でよほど養生がよければ、さらに7年つまり56歳まで生理のある人があるという風になっています。 56歳以上になって子宮出血があるというならばこれは病気、けっして生理ではありません。こういう風に黄帝内経という本の中では説明されています。 したがって女性の最高至上というのは28歳、なかには36歳になっても28歳に負けるかいう人もおるかも知れませんが、それは通りません。なぜかというと28歳という若さには勝てないですね。そういう風になっていますから、結局一番頂上は28歳。


 じゃ男性はというと、8の倍数で計算されています。まず8歳にして睾丸がしっかりと出来る。16歳にして射精することができるようになる。24歳になりますと相手の女性に子供を生ませて育てさせることができるようになる。そうすると女性のほうがすこし「おませ」で、男性のほうがすこし遅れてきます。そして32歳、老化がはじまるということになる。だから男性の男盛りは32歳。お相撲でもそうですが、だいたい32歳ぐらいが頂上でしょう。それ以上はなかなかで、体力が落ちてくるんですね。


 もっとも引退すれば「年寄」なんて名前がつくんですから、そこから老化がはじまるんだということになってるわけです。そして8の倍数ですから、80歳になると淫して漏らさず。結局射精能力は81歳で落ちてくる。養生がよければ80歳で子供を生ませることができるかも知れませんが、しかし80歳で頂上になる。 こういうふうに計算していきますと、水火既済の卦というのは最高の卦だというようにお考えいただくといいかと思います。 たとえば家を建てたというと、建てたときがこの状態ですね。建てたあとはその翌日から汚れはじめ、腐りはじめ、壊れはじめるんで、一年、二年と経つにつれて古家になってきますから、建てたときが最高なんです。 だからほんとうは橋本龍太郎先生をお祝いするどころじゃない。ほんとうはその時点で、予防ということを考えて行かなきゃいけなかったんですけれども、手放しで喜びましたから、それから後はご存知のような結果になりました。 ですから水火既済の卦は非常に重要であります。 

つづき